社会人になった年に、保険に入りました。自分で選んだわけではありません。母に「とりあえず入っておきなさい」と言われ、職場で案内された共済にそのまま申し込みました。
月6,000円。それを、今も払っています。11年目です。
入ったとき、受け取る人はいませんでした
加入した当時は実家に住んでいました。独身で、両親も現役で働いていました。
その保険には、死亡したときにまとまったお金が出る保障がついています。ただ、当時の私が死んだとして、そのお金で生活が助かる人は、いませんでした。両親には収入がありましたし、養っている家族もいません。
誰のための保障なのかを、私は一度も考えませんでした。考えないまま、申し込みました。
誤解のないように書いておくと、あの掛金には入院や手術の保障も含まれています。だから「無駄な保険に入った」とは思っていません。実際、独身のあいだに入院していたら、私は保険金を受け取っていたはずです。
言えるのは、死亡保障の部分については、受け取る人がいなかったということだけです。
最初の5年で36万円。今は79万円を超えています
月6,000円を5年払えば36万円。11年で79万2,000円です。
この金額が家計の将来にどう効くのか、当サイトの「人生キャッシュフロー・シミュレーター」で確かめてみました。
自分の家計で試してみる →入れたのは、我が家に近いモデルケースです。年齢33歳、世帯の手取りは月40万円、貯金は300万円。毎月3万円を利回り5%で投資に回しながら、一般的な4人家族というプランで、3歳と1歳の子どもを育てています。この条件だと、資産が底をつくのは50歳でした。
そこに、保険料を削った場合を入れてみます。「月々の固定費削減」というスライダーがあり、目盛りは5,000円刻み。月6,000円はちょうど乗らないので、手前の5,000円で試しました。
50歳のまま、動きませんでした。
もう一つ右へ。1万円まで動かして、ようやく51歳です。1年。
参考までに、総務省の家計調査で二人以上の世帯が払っている掛け捨て型の保険料は、火災・地震保険料、医療保険料、その他の掛け捨て型保険料を合わせて月9,413円です(2025年計、品目分類第6-1表)。つまり平均的な世帯が保険料を丸ごとゼロにしたとしても、このモデルケースで延びるのは1年ということになります。
同じ79万円を、別の場所に置いていたら
もうひとつ、気になったことを計算しました。あの月6,000円を保険ではなく、積み立てに回していたらどうなっていたのか。
シミュレーターと同じ想定利回り、年5%で11年間積み立てた場合、79万2,000円は約105万7千円になります。増えるのは、11年で26万円ほどです。
思っていたより、小さい数字でした。私はどこかで「もっと大きく違ったはずだ」と考えていたのですが、月6,000円を11年では、置き場所を変えてもこの程度にしかなりません。
もちろん、実際の運用は想定どおりにはいきません。増えることも減ることもあります。ここでは「同じ金額を別の場所に置いた場合の目安」として計算しているだけで、こうなると言っているわけではありません。
それでも、この数字ではっきりしたことがあります。この11年ぶんは、どこに置いても家計の形を変えるほどの額ではなかった。保険に置いたことが損だったのではなく、金額そのものが小さかったのです。
削っても動かないなら、金額で決める話ではなかった
ここで、自分の考え方が間違っていたことに気づきました。
私はずっと、保険を「高いか安いか」で見ていました。月6,000円は安いほうだと思っていたし、だから見直す必要も感じませんでした。
でも、削っても家計の形が変わらないなら、そもそも金額を見て判断する種類の支出ではありません。安いから続ける、高いからやめる。どちらも、判断の軸がずれています。
数千円の違いは、グラフの上ではほとんど何も起こしません。一方で、保障が必要なときに保険に入っていなければ、そこで起きることは数千円では済みません。金額の差は小さく、必要かどうかの差は大きい。比べる場所が違ったのです。
固定費の見直しが効く場面もあります。ただ、それはスマホ代を7年削り続けた話でも書いたとおり、金額がある程度まとまってからの話でした。
では、何を先に決めるべきだったのか
今の私なら、順番を変えます。
まず「自分に何かあったとき、誰が金銭的に困るのか」を決める。そこがはっきりしてから、その人が困らないために必要な額を考える。金額を見るのは、いちばん最後です。
入社したときの私は、この最初の質問に答えられませんでした。答えられないまま、金額だけを見て「これくらいなら」と決めていた。順番が逆でした。
これは死亡保障の話です。医療保障については、また別の考え方が要ります。手元にどれくらい現金があるか、健康保険の高額療養費制度でどこまでまかなえるか。そちらは金額の話に近くなります。
貯蓄型の保険も、別の論点です。あれは保険というより、保障のついた積立に近い。同じ「保険料」という言葉でひとくくりにすると、判断を間違えます。学資保険で迷った話は、別の記事に書きました。
契約は一度も変えていないのに、意味だけが変わりました
あれから11年が経ちました。今は3歳の息子と、1歳の娘がいます。
今の私に何かあれば、困る人がはっきりいます。妻と、子ども2人。最初の質問に、答えられるようになりました。
ここで妙なことに気づきます。私は保険の中身を、一度も変えていません。結婚したときも、子どもが生まれたときも、そのままにしていました。11年前に母に言われて申し込んだ内容が、今もそのまま続いています。
それなのに、意味だけが変わりました。受け取る人がいなかった保障が、いつのまにか受け取る人のいる保障になっている。変わったのは保険ではなく、私のほうでした。
そして、変わったのが私のほうであるなら、あの内容が今の私に合っているかどうかは、確かめていないということでもあります。金額を見て「これくらいなら」で決めた11年前の判断が、そのまま残っているだけです。
「確かめる」とは、具体的に何をすることか
必要かどうかで決めるべきだったと分かったのに、私はまだ、確かめていません。書いていて、そこが引っかかっています。
ではその「確かめる」とは、具体的に何をすることなのか。整理してみました。
1つ目は、証書を出してくることです。死亡したときにいくら出るのか、入院したら日額いくらなのか。私はこれを、11年間一度も見ていません。加入したときの説明を覚えているだけです。
2つ目は、公的な制度でどこまでまかなえるかを引くことです。会社員なら遺族厚生年金があります。医療費には高額療養費制度があります。ここを引かずに必要額を出すと、公的制度と重なった分だけ多く払うことになります。
3つ目は、残った差額を埋めるのに、今の契約で足りているかを見ることです。足りていなければ増やす。多すぎれば減らす。今のままで合っているなら、何もしない。
この3つを自分ひとりでやろうとして、私は11年止まっていました。証書を探すところで止まり、遺族年金の計算で止まりました。やる気がなかったのではなく、どこから手をつければいいのかが分からなかった。
第三者に整理してもらうという方法もあります。保険の無料相談は、契約を切り替えるための場というより、今の契約と今の家族構成を突き合わせて、差額を出してもらう場として使えます。話を聞いたうえで、今のままにするという結論でも構いません。
ただし、これは守るべき人がいる方に限った話です。独身で、自分に何かあっても金銭的に困る人がいないなら、急いで見直す必要はありません。11年前の私が、まさにそうでした。
あなたの場合はどうか、計算してみてください
保険をやめたほうがいいと言うつもりはありません。私の場合はこうだった、というだけの話です。
ただ、ひとつだけ言えることがあります。「保険料が高い気がする」と感じているなら、その金額を削ったときに何年動くのかを、先に見ておいたほうがいい。
動かないなら、金額の話ではありません。誰のための保障なのかを考える話です。動くなら、それは保険というより、家計全体の固定費の話になります。どちらなのかは、自分の数字を入れれば1分で分かります。
正解は家庭によって違います。守るべき人が何人いるか、貯金がいくらあるか、共働きかどうか。同じ保険料でも、意味はまったく変わります。
保険料を削ると何年動くか見てみる 入力は1分程度。固定費のスライダーを動かすだけで分かります

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